柱子

見た目だけじゃない、効能のある日本の工芸品

柱子
8 月 29, 2025
見た目だけじゃない、効能のある日本の工芸品

日本の伝統工芸品には、ただ美しいだけでなく私たちの健康や生活の質を高めてくれる効能を持つものがたくさんあります。南部鉄器の鉄瓶で沸かしたお湯は鉄分補給ができ、錫(すず)の酒器はお酒の味をまろやかに変えます。秋田杉の曲げわっぱ弁当箱はご飯を美味しく保ち、漆塗りの器は抗菌作用で食べ物を守ります。さらに、和紙の壁紙や畳のい草には湿度調整や空気清浄効果も。

和モダンな暮らしにこれらを取り入れれば、大人の上質な暮らしをより健康的で豊かなものにできるでしょう。本記事では、そうした「見た目だけじゃない効能」を持つ工芸品を歴史背景や現代での活用法とともに幅広くご紹介します。

 

 

南部鉄器 – お湯をまろやかに、美味しく鉄分補給

岩手県の南部鉄器は400年の歴史を誇る伝統工芸品です。中でも代表格の鉄瓶は、茶の湯釜を小型化して作られ、江戸時代から庶民の湯沸かし道具として親しまれてきました。重厚な鉄瓶には、他のヤカンにはない驚きの効果があります。鉄瓶で沸かしたお湯は水道水のカルキ臭(塩素臭)を取り除き、口当たりの柔らかなまろやかな湯になるのです。これは沸騰時に鉄瓶内部から溶け出す鉄イオンが残留塩素と反応し、塩素を中和してくれるため。他素材のヤカンよりも鉄瓶の塩素除去効果は優秀だとされています。

さらに、鉄瓶で沸かした湯には体に吸収されやすい二価鉄が溶け出します。毎日の白湯やお茶で自然と鉄分補給ができるため、貧血予防にも効果的です。実際、南部鉄器から溶出する鉄の80~95%がこの二価鉄であることが明らかになっており、継続使用で貧血の改善に役立つとの研究報告もあります。

南部鉄瓶は一生ものと言われ、手入れしながら使い込むほど内部に湯垢が育ち、ますます美味しいお湯が沸かせるようになります。寒い季節には沸かした湯気が室内の加湿にもなり、風情と実益を兼ねてくれるでしょう。

南部鉄器は、使い続ければ50年、100年もつと言われます。現代ではIH対応の商品も登場し、キッチンに取り入れやすく進化しています。南部鉄器の鉄瓶で沸かした白湯を毎朝飲めば、体もぽかぽか、鉄分もしっかり補給。伝統工芸品を暮らしに取り入れることで、和モダンな暮らしを楽しみながら健康も手に入るのです。

 

錫(すず)の酒器 – 殺菌作用で水やお酒をまろやかに

    古来より「錫の器に入れた水は腐らない」「酒の雑味が取れて美味しくなる」と伝えられてきた金属が、錫(すず)です。錫製の酒器や茶器は江戸時代から愛用され、現在でも富山の高岡銅器や大阪錫器といった工房が美しい錫器を作り続けています。銀白色に輝く錫器は見た目に上品なだけでなく、そのイオン効果によって飲み物の味をまろやかにしてくれるのが大きな魅力です。

    錫は金属の中でも非常に錆びにくく抗菌性が高い素材です。分子構造が粗く表面に無数の微細な穴があるため、水やお酒中の不純物を吸着し、浄化する働きがあります。その結果、水道水の嫌な臭みが消え、お酒の雑味も軽減されるのです。例えば錫製のビールタンブラーで飲むビールは泡立ちがクリーミーになり、日本酒を錫のぐい呑みで飲めば驚くほど口当たりが柔らかく感じられます。また、錫イオンには日本酒の熟成で生じるフーゼル油を分解する効果があるとも言われ、まさに酒器にうってつけです。

    錫器の効能はそれだけではありません。殺菌効果にも優れているため、生花の花瓶に用いれば水が腐りにくく花が長持ちし、錫の茶筒に入れた茶葉は香りが落ちにくいという話もあります。錫は空気中・水中でも安定し有害物質が溶出しないため、現代でも安心して食器に使える金属です。さらに熱伝導率が高いので、冷蔵庫で冷やせば器自体がひんやりと冷たくなり、冷たい飲み物をより一層美味しくいただけます。

    錫器はそのしっとりとした光沢と手馴染みの良さから、使い込むほどに味わいが増すのも魅力です。ぐい呑みやタンブラー、ビアグラスなど、現代的なデザインの錫製品も増えており、和モダンな暮らしの中で活躍してくれるでしょう。

     

    曲げわっぱ – 木の弁当箱が守るご飯の美味しさ

    秋田杉で作られる曲げわっぱの弁当箱は、その愛らしい木目と丸みのあるフォルムで人気ですが、実はお弁当を美味しく保つための理にかなった道具でもあります。曲げわっぱは杉板を熱湯で曲げて輪にし、桜の樹皮で留めて作る伝統工芸品です。江戸時代、秋田の大館地方で武士や農民が副業として作り始めたとされ、軽くて丈夫なうえに通気性が良いことから弁当箱として広まりました。

    木製の曲げわっぱ最大の特徴は、調湿効果と抗菌作用です。無塗装の白木の曲げわっぱに炊きたてのご飯を詰めると、蓋を閉めた後も杉の木が呼吸してご飯の余分な水分を吸収し、適度な水分だけを保ってくれます。そのため、時間が経ってもご飯がベチャッとならず冷めてもふっくら美味しい状態が続くのです。反対に冬場など乾燥するときは木から適度に湿気が放出されるので、ご飯がカチカチに固くなるのも防いでくれます。木が自然に弁当内の湿度を調整してくれるのです。

    また、杉や檜など針葉樹には「フィトンチッド」と呼ばれる抗菌成分が含まれ、雑菌の繁殖を抑える効果があります。曲げわっぱの弁当箱はプラスチックに比べて通気性が良いことも相まって、おかずやご飯が傷みにくく、特に夏場の食中毒予防に有効とされています。杉の爽やかな木の香りが食材の臭みを和らげ、ほんのり移る香りもまた食欲をそそります。

    曲げわっぱの使い方は、普段の弁当箱と同じくご飯やおかずを詰めるだけです。使い終わったらすぐ洗ってしっかり乾燥させればカビも防げます。最近では内側をウレタン塗装して手入れを簡単にしたものや、漆塗りで耐久性を高めつつ漆の抗菌作用も得られるものなど、初心者でも扱いやすい製品も出ています。使うほどに味わいが深まる曲げわっぱは、まさに大人の上質な暮らしにふさわしい逸品と言えるでしょう。

     

    漆器 – 自然の抗菌力を持つ器

    日本の伝統漆器(漆塗りの器)は、その艶やかな美しさと軽さ・丈夫さで古くから愛用されてきました。汁椀やお弁当箱、お盆など様々な漆器がありますが、漆器には見た目以上の効能があります。その一つが抗菌作用です。漆の主成分である「ウルシオール」には抗菌性があることが知られており、漆塗りの器は雑菌の繁殖を抑えて食品を守ってくれます。

    例えば、石川県の輪島塗の漆塗り弁当箱は「抜群の強度と優れた抗菌作用」を持つとされています。木地の下地に珪藻土を混ぜ、幾重にも漆を塗り重ねた輪島の弁当箱は、適度に内部の湿度を調整してくれるため、サンドイッチを朝詰めても夕方までパンが乾かずしっとりとしています。さらに漆の抗菌作用のおかげで長時間保存しても食材が痛みにくく、梅雨時でも安心です。

    漆器は、断熱性にも優れています。木と漆でできたお椀は熱い味噌汁を入れて手に持っても熱すぎず、中の汁は冷めにくいというメリットがあります。さらに落としても割れにくく、仮に表面に傷がついても塗り直しが可能で長く使えるのもエコで魅力的な点です。

    漆器の歴史は縄文時代にまで遡ると言われ、日本人は漆の器を生活に取り入れることで衛生と実用性を高めてきました。現代でも、毎日使う汁椀を木の漆椀に変えてみると、口当たりの柔らかさや手に持った時の馴染みの良さにきっと気づくでしょう。漆器は高価なイメージがありますが、使い捨てず一生ものとして大切に使うことで、結果的に豊かな暮らしへの投資になると言えます。伝統工芸品である漆器を日常に取り入れ、天然の抗菌パワーとぬくもりを実感してみてください。

     

    和紙 – 湿度を調整し空気を清浄にする天然のフィルター

    日本の和紙もまた、見た目の美しさと機能性を兼ね備えた伝統素材です。障子や襖(ふすま)、和紙壁紙といった形で室内に使われる和紙には、現代の空調機器も驚くような調湿・空気浄化作用があります。和紙は楮(こうぞ)や三椏(みつまた)など天然繊維から作られた多孔質な紙で、湿度が高い時には空気中の水分を吸収し、乾燥している時には蓄えた水分を放出して室内の湿度を自動調整します。まさに呼吸する壁材・建具と言えるでしょう。

    障子紙を夏に触るとひんやり感じるのも、この吸放湿性のおかげです。実験では、和紙を張った部屋はエアコン無しでも肌寒いほど湿度と気温上昇を抑える効果がみられたケースもあります。また、冬は逆に室内の乾燥を和紙が和らげてくれるため、加湿器代わりにもなります。

    さらに和紙繊維は天然のフィルターの役割も果たします。空気中のホコリや花粉、嫌な臭いの粒子を吸着し、室内の空気を綺麗にしてくれる効果があるのです。また障子紙は光を柔らかく拡散するため、紫外線の約90%をカットしつつ室内に優しい明るさを届けてくれる効果もあります。和室の障子越しの光が心地よいのは、目に有害な光を和紙が調整しているからなのです。

    和紙を使ったインテリアは近年和モダンな暮らしとして見直され、照明器具のシェードやアートパネルなどにも応用されています。伝統的な越前和紙や土佐和紙の職人たちも、現代の住宅に合うおしゃれな和紙壁紙やランプシェードを提案しています。調湿・消臭効果で快適な室内環境をつくり出す和紙は、エコで健康的な素材として世界的にも注目されています。洋室にアクセントで一面だけ和紙壁紙を張るなど取り入れるだけでも、部屋の空気が澄んだように感じられるでしょう。

     

    畳(い草) – 空気を清浄し心を癒やす和の床

    日本の住まいに欠かせない畳も、機能性抜群の伝統工芸的製品です。畳表に使われるい草(藺草)には驚くべき効果が秘められています。い草は断面がスポンジ状の多孔質で、その茎内部の無数の空洞が優れた調湿機能を担っています。湿度が高いときには畳が湿気を吸収し、乾燥すると蓄えた水分を放出して、年間を通じて室内を快適な湿度に保ってくれるのです。夏の蒸し暑い日に畳の上でゴロリと寝転んでもベタつかず爽やかなのは、畳が天然の調湿器として働いているからに他なりません。

    加えて、い草には空気中の有害物質を吸着・分解する力もあります。畳の部屋はシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドや二酸化窒素の濃度が下がることが確認されており、い草が室内の空気を浄化してくれているのです。い草特有の爽やかな青い香り(フィトンチッド)はリラックス効果も高く、アロマテラピーのように心身を落ち着かせてくれます。畳の部屋に入るとほっとするのは、この香りの癒やし効果と足触りの良い畳の感触によるものでしょう。

    さらに畳には適度なクッション性があり、歩くとき足腰への負担を和らげてくれます。転んだときも衝撃を吸収し怪我をしにくいという利点もあり、小さなお子さんからお年寄りまで安心です。断熱効果も高く、夏はひんやり冬はほんのり暖かいという性質も持っています。伝統的な床材でありながら、実は機能満載の高性能マットなのです。

    近年は縁なし半畳タイプやカラー畳などモダンな畳も登場し、洋間にアクセントで畳コーナーを設ける住宅も増えています。畳文化が見直されているのは、デザイン性だけでなくこのような健康・快適面でのメリットが再評価されているからでしょう。例えば寝室に畳を敷けば調湿効果で快眠を促し、リビングの一角に畳スペースをつくれば家族がリラックスできる癒やし空間になります。和モダンな暮らしを求めるなら、ぜひ畳を取り入れて日本の英知を実感してみてください。

    札幌で、これらの工芸品に触れられる場所

    以上、日本の伝統工芸品・天然素材の中から、見た目の美しさだけではない効能を持つものをいくつかご紹介しました。札幌の北円山にある日本現代 N6 北丸山」。では、これらの工芸品を実際に見て触れていただけます。和モダンな暮らしのアイデアやコーディネートもご提案しておりますので、興味のある方はお気軽にお立ち寄りください。美しく機能的な伝統の品々を生活に取り入れて、皆様の毎日がより上質で健やかなものにしてみてはいかがでしょうか。