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日本の伝統的工芸品としても広く知られる金沢箔は、単なる「金色の薄いもの」ではありません。光を面に束ねて、場の空気を設計するための道具です。職人は金を叩いて薄くするのではなく、余計な厚みとムラを取り除きます。残るのは、ほとんど“光だけ”です。この仕事に、金沢という土地は四百年かけて呼吸を合わせてきました。

本記事では、伝統に根ざしながらも進化を続ける金沢箔の思想や製造方法、札幌でも購入できるショップなどの紹介も踏まえて幅広く紐解いていきます。

 

 

雨の街が育てた均一という美学

石川県金沢の冬は、晴れの日が少ない街です。湿り気は鬱陶しく感じられますが、これは箔にとっては味方になります。乾きすぎると静電気が暴れて破れますし、湿りすぎても紙が寝ぼけます。ほどよい湿潤が、極薄の金と紙と空気をなだめるのです。

ここでいう極薄とは、一般的におおよそ0.1マイクロメートル前後（髪の毛の数百分の一）と表現される世界です。数値はメーカーや規格でわずかに違いますが、感覚的には「息をひそめて扱う厚さ」と言えます。

 

職人の時間と製造工程

金沢箔の製造は、まず打紙（うちがみ）に挟んだ金を木槌で打ち延ばす工程から始まります。叩く強さやリズム、紙の耐久性を正確に管理することで、均一な厚みを得ることができます。視覚よりも聴覚や感覚を基準にした微調整が求められる作業です。

こうして仕上がる金沢箔の特徴は、強い反射ではなく、面としての静けさにあります。過度に光を主張せず、空間の中で落ち着いた輝きを放つ点に価値があります。神社仏閣の壁面や茶室の道具などに使われるのは、主張を抑え、他の要素を引き立てる性質を持つためです。

箔貼りの工程は「仕上げ」ではなく、全体の設計の一部です。最終的な美しさは、下地の精度によって決まります。木地であれば導管を埋め、石膏であれば吸い込みを均一にし、漆では研ぎの平面を厳密に整える必要があります。下地のわずかな歪みも、薄い箔にはそのまま表れます。

そのため、作業の多くは貼る前の段取りに費やされます。材料の状態、温湿度の調整、接着剤（膠・でんぷん糊・合成樹脂など）の選定といった要素を一つずつ最適化しながら進めます。箔の品質は、貼る前の設計でほとんど決まっているのです。

薄さがもたらす効果は二つあります。第一に「経済性」です。薄い素材は材料の効率を高めるだけでなく、輸送や施工の合理化にもつながります。第二に「倫理性」です。厚みや重量による権威性を避け、わずかな膜で空間の品格を高めることができます。

日本の美意識に通じる「控えめな贅沢」は、こうした薄さの技術によって支えられています

 

実生活への金箔の活用

1. 建築・インテリア

金の大壁は壮観ですが、広ければ良いわけではありません。おすすめは「点を線に、線を面に見せる」レイアウトです。巾木の上に細い帯で回す、ニッチの奥に敷く、階段の踏み板の蹴込みに使う。

視界の斜入射で初めてわかる仕掛けは、住むほどに効いてきます。

2. 器と道具

器物は手の中で光るのが良さになります。全面箔より、切箔・砂子など“粒子”にするのがおすすめです。飲み物の表面張力や料理の湯気と混ざると、時間で変化する反射が楽しめます。

3. 食の演出

食用金箔は安全性の基準内で流通しています。味は支配しない代わりに、意味を支配させるのです。金は味を変えない代わりに、場の物語を増幅します。

 

金沢箔の器に宿る、“永遠色”と“久遠色”の美

山中漆器の高度なろくろ技で挽かれた、軽やかな栓（せん）の木地に、箔座独自の純金プラチナ箔を施したボウルセットや小物入れがあります。外側にはドット模様、内側には抜き模様をあしらうことで、シンプルでありながら和モダンな表情を生み出しています.

箔は極薄で柔らかく、筋や木目に沿って陰影を描き出します。内外で異なる二色を組み合わせることで、ナチュラルな木肌と金属の光沢がコントラストをなし、使うほどに奥行きを感じさせます。

「永遠色（とわいろ）」
金99％＋プラチナ1％による重厚な黄金色。
「久遠色（くおんいろ）」
金92％＋プラチナ8％で生まれる、シャンパンゴールドのような澄んだ輝き。

 それぞれが唯一無二の存在感を放ち、使うほどに深みを増していきます。

 

産地で学ぶこと、未来へつなぐこと

金沢を歩くと、箔は観光名物というより、生活や信仰、ものづくりの中心にあることがわかります。町家の欄間、仏壇店の装飾、ギャラリーの照度、どれも日常の中に静かに根づいています。観光地らしい過剰な演出もありますが、その中で“節度と過剰の境界”を見極めること自体が、学びの一部といえます。

体験教室などで小物に箔を貼る機会もありますが、作業そのものよりも、「貼れてしまうこと」の難しさを実感できます。貼ることは簡単でも、美しく保つには環境や取り扱いへの理解が欠かせません。湿度が高い場所に置けばすぐに変化が現れるように、素材は常に環境と対話しています。

そうした現場の感覚は、金沢箔の未来を考えるうえでも重要です。金はリサイクル可能であり、箔は使用量が少ない素材ですが、製造の過程には廃液や接着剤、紙資源など、多くの環境的課題があります。持続可能なものづくりは、素材単体ではなく、工程全体の透明性に支えられます。産地と使い手が、それぞれの選択や背景を共有しながら文化を更新していくという、その積み重ねが伝統を産業として未来へつなぐ力になるのです。

 

札幌・北円山のショップで出会う、金沢箔のうつわ

Staðsett í Kitamaruyama, Sapporo City,Japanese Modern N6 Kitamaruyama』では、金沢箔を用いたボウルセットや小物入れなどの工芸品を実際に手に取って確かめたうえで購入することができます。軽やかな木地と金属光沢の調和、手に伝わる質感や重み、箔の光が描く繊細な陰影。そのすべてを、直接感じていただけます。

店内には、金沢箔の製品以外にも、暮らしに取り入れやすい現代的なデザインの伝統工芸品が揃っています。上品で落ち着いた輝きを持ちながら、どんな空間にも自然に溶け込む佇まい。和の伝統とモダンな感性が調和する、特別なひと品に出会える場所です。ぜひ、この機会に実際にショップに足を運んで、商品を手に取って見てみてください。

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